日本では下水処理場からの放流水が流れ込んでいる河川のすぐ下流で上水道の取水が行われることは稀なことではありません。
これは日本の浄水技術が世界一であるからそれでも安心して水道水が飲めるのだと考えがちです。また例えばフランスであまり水道水を飲まないのは水が悪いせいであるなどとかなり誤った考えでフランス人の習慣を解釈しがちです。
私は40年以上前にパリに長く住んでいましたが貧乏生活でしたからペットボトルの水など買ったことはありませんでした。特に不都合な健康障害に見舞われたことは一度もありません。当時のパリの水は塩素臭などとは全く無縁でしたし、それは今日でも変わっていないはずです。ただ多くのフランス人が当時からペットボトルの水を買っていたのは間違いではありません。
私はパリに移り住む前にはドイツにも長くいましたが、当時はフランス人が高いペットボトルの水を買っていることをドイツ人は皮肉っぽく評していたものです。またロンドンにも長く住んでいましたがやはり水道水は飲んでもまったく問題はありませんでしたし、下宿先のおばさんがペットボトルの水を買っていたような記憶はありません。
こんなわけで日本の水道水の品質は世界一だといわれるとなんとなく嬉しくなりそう思い込んでしまいがちですが、私たちの脳ミソに巣食っているこの常識を疑ってみるのにいい書物をここで紹介いたします。
それは古い書物ですが鯖田豊之著『水道の文化ー西欧と日本ー』です。水道の話だけではなくて自然と人間の共生について大切な考え方を示唆してくれる名著です。こんな書物を書ける学者に声をかけた新潮社はえらい!
この本を十分に理解するためには、今日の最新技術の粋を全て盛り込んだ『急速濾過』という浄水技術は薬品漬の悪循環に陥る危険性が大きく、19世紀初頭にイギリスで開発された『緩速濾過』という超レトロな浄水法には水質の良さとおいしさと低コストの面でとてもかなわないということ、そして緩速濾過法を維持するためには水源地の自然保護が不可欠であることをまず知っていないと、全く反対の解釈をしてしまいます。ご注意ください。