私は定年をこの3月で迎えます。戦後生まれですから戦争を知りません。しかしこの頃いろいろと考えさせられることがありますので、重い話ですが戦争について述べてみたいと思います。
私が戦争をある種の実感として感じたのはアメリカにいた時です。ある大学の先生が解雇されることになると会議の席を突然立ってしまいました。私は気になって廊下に出てみると彼が窓外を眺めていました。彼の脳裏に何があったのかは分かりませんでした。
私がおもむろに話しかけると彼は率直に自分の気持を吐露し始めました。彼はベトナム戦争で海兵隊の一員として出征しました。そして闘ったのです。彼は生粋の海兵隊員として訓練され、「敵を見たら殺せ」という意識を徹底的に植え付けられているので、「自分が怖い」と言い出しました。
そして大学で教えている理由にも触れてくれました。彼の話は、若い人たちが自分のようになって欲しくない、自分の悪魔の部分を意識しないで生きられる職場が大学である、というような内容のものでした。彼は泣いておりました。
私はその時から世界の厳しさを現実的に考えようとすることにしました。大学は自由の砦かつ良識の府として若い人たちの未来のためにあるもので、それ以外のためにあるものでは決してないことを再確認した出来事でした。