私がある晴れた日に国会図書館に向かって歩いていたら拡声器から大きながなり声が聞こえてきました。ちょうど交差点でしたので信号が変わるまで様子を見ていました。誰も気に留める人もいませんし近くにいる機動隊員も無視の表情です。
信号が変わるのをやり過ごしてしばらく演説するちょっと怖そうなオヤジを眺めていました。やはり誰も一向に見向きもしません。というよりは通行人は何か異物のように気にはなるけれども厄介だから無視しようという雰囲気でした。
私がやおら口出しを始めました。私はオヤジの演説をさえぎって言いました。誰も聞いてくれないのに無駄ではないか、他によい方法を考えたらどうかと。彼は怒るでもなく答えはこうでした。
俺は戦争に行って上官にひどい仕打ちを受けてきた。口の中に釘をいっぱい入れられて死ねと言わんばかりにビンタを食らわせられたこともある。権力を持ったらそういうことを平気でする人間がいることが許せなくてこうしているんだと。
残念ながら彼の演説の内容はまったく私の記憶には残っていません。他愛もない内容だったのでしょうが、その心意気には敬服するものがありました。あれからかなり経ちますが彼の姿を見ておりません。あの時にもっと話を聞いてあげればよかったと悔やんでおります。