あまりにも有名ではありますが高村光太郎の詩「あどけない話」をまず引用します。
あどけない話 高村光太郎
智恵子は東京に空が無いといふ、
ほんとの空が見たいといふ。
私は驚いて空を見る。
桜若葉の間に在るのは、
切っても切れない
むかしなじみのきれいな空だ。
どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ。
智恵子は遠くを見ながら言ふ。
阿多多羅山の山の上に
毎日出てゐる青い空が
智恵子のほんとの空だという。
あどけない空の話である。
東京を車で北上して郡山市を過ぎて智恵子の生まれた二本松市に接近するにつれて安達太良山が左手に見えてきます。東電福島第一原発事故で放出された放射能が南に方向転換したのは安達太良山に行く手を阻まれたからだと考えられます。
あの智恵子の言う東京には無い青い空の下では、豊かな福島の大地に放射能が降り注ぐとは想像だにできないのどかな世界が広がっていたはずです。皮肉ではありますが智恵子抄が出版された1941年頃は原爆や原発の設計図が固まってきた時期でした。