日本人の顔は陰影がないから描きにくい。映画看板製作の名人の言葉です。確かに私たちの顔は平っぺたい板の上に正面から鼻を隆起状にくっ付けて、あとは眼と鼻と口を描くという手順で出来あがっています。
名人が描きやすいのは陰影がある西洋人の女性の横顔だそうです。西洋人を観察すると横顔に眼がくっついた感じですが、私たちの眼は真正面から貼り付けられたように見えます。両方の眼頭と鼻先を結んだ逆三角形の外の顔の部分に起伏がないからです。整形手術でも眼鼻の形は変えられても平たい顔に起伏は付けられません。
ここで改めて浮世絵をつぶさに観察してみるとある重要なことに気が付きます。例えば歌麿の美人画はいつも決まったアングルで人物が描かれています。この場合は少し斜め前から見た構図になります。世界の美人画と言われるモナリザ像はもう少し正面寄りになって描かれています。この微妙な角度の違いを取ってこそ東洋人と西洋人のそれぞれの顔の美しさが表現できたのだと思います。
日本人の顔のもっとも美しい表現方法は浮世絵師がしっかりと心得ていたように少し斜め前から見るのが一番でしょう。これからは見合い写真は歌麿の美人画のアングルで写せばきっと婚約までまっしぐらは間違いありません。お見合いは何しろ写真からすでに始まっているのですから。