写真家土門 拳「昭和のこども」(小学館)の巻末に内館牧子の“恐れと畏れ”が掲載されています。一部を紹介します。
『遊んでいる最中に、タカちゃんの母親が来て言った。
「母ちゃん、道に十円落としたんだよ。タカ、探して来て」
タカちゃんは遊びをやめ、ゴムのカッパを着ると大雨の中に出て行った。私は黙って土間のような部屋で待っていた。やがて、ずぶ濡れになって帰って来たタカちゃんは、
「母ちゃん、どこにも十円なかった」
と言った。すると母親はタカちゃんを張り飛ばし、倒れたところを足で踏んだ。
「探して来いッ。見つけるまで帰って来るんじゃないッ」